肛門外科について
肛門外科について
肛門外科は肛門疾患全般を扱う診療科です。
日本人の3人に1人が痔で悩んでいるといわれるほど、私たちにとっておしりの病気は身近なものです。
その病態は様々で、三大肛門疾患といわれる痔核、裂肛、痔瘻をはじめ、ポリープ、狭窄、膿瘍、肛門周囲炎、尖圭コンジローマ、肛門がん、膿皮症、直腸瘤、直腸脱など、数多くの疾患が存在します。
それぞれ治療法は異なりますが、痔の中で最も多い痔核では根治的手術はもちろん、「切らずに治す治療」も登場しており、個々の患者さんの事情や病態に応じたオーダーメイドの治療が選択できるようになっています。
男女を問わず、おしりの悩みがあっても受診に抵抗がある方は多いと思いますが、そのまま放置してしまうと症状の悪化を招くだけでなく、他の病気の発見が遅れてしまう可能性もあります。
当院では日頃より、患者さんの気持ちを汲み取りながら診療を行なっています。おしりの症状でお困りの方は一人で悩まずに、是非一度気軽にご相談ください。
肛門外科の主な病気
痔核
肛門にいぼ状の膨らみができるもので、直腸と肛門の境目である歯状線より直腸側の内痔核と、外側の外痔核に分類されます。
肛門でパッキンのような働きをしている肛門クッションの滑脱が一因と考えられ、出血や脱出、痛み、違和感などの症状が現れます。痔核の腫れを、残便感として感じる方もいます。時には脱出したまま戻らなくなり、強い痛みを生じる嵌頓痔核も起こります。
痔核の治療法は、生活習慣の見直し、薬物療法のほか、外科的手術や注射(硬化療法)があります。当院では複数の硬化療法や日帰り手術をおこなっています。
血栓性外痔核
肛門の外側にできる豆のような痔核です。便秘や下痢、長時間の座位等で肛門に負担がかかったり、重いものを持ったりしたときに痔核の静脈の中に血栓(血のかたまり)ができたもので、突然発症することが多いです。小さいものは1-2週間程度の薬物療法で吸収・消失していきますが、痛みや腫れなどの症状が強い時には手術療法を行います。
裂肛、肛門狭窄
肛門上皮が裂けて傷となり、痛みや出血を生じるものです。短期間で治癒することもありますが、慢性化すると肛門ポリープや見張りいぼが形成され、傷が治りづらくなります。さらに長期間経過すると肛門狭窄を引き起こし、排便時に強い痛みを伴うことがあります。硬便や肛門の血行不良などが原因になるため、生活習慣の改善、薬物療法が基本ですが、それらで改善しない場合には用手肛門拡張術や皮弁を使った手術なども行われます。
肛門周囲膿瘍、痔瘻
肛門周囲に細菌が感染し、膿が溜まった状態です。強い痛みや腫れ、発熱が起こります。抗生物質では改善に乏しく、切開が必要となることが多いです。切開して排膿されると症状は改善しますが、肛門内のくぼみ(肛門陰窩)から感染している場合には皮膚と交通を作りトンネルが形成されることがあります。これを痔瘻といい、後に根治手術が必要となります。痔瘻でない場合には汗腺炎である膿皮症、感染性粉瘤などが原因となっていることがあり、これらも炎症の痕が残る場合には切除を行います。
膿皮症(膿性汗腺炎)
肛門周囲の汗腺が炎症を起こし、肛門周囲からお尻にかけて皮下に膿が溜まったものです。男性に多く、痔瘻が合併していることも少なくありません。初期には抗生剤で治療することもありますが、繰り返している間に色素沈着を起こし、皮膚も硬くなってくるため、拡大すると手術が必要となることが多いです。
粉瘤
皮膚の上皮成分が皮内や皮下に落ち込んで袋状となり、その中に皮脂や垢が溜まってできた良性腫瘍で身体中のどこにでもできます。肛門付近にできた場合は時に感染を起こし赤く腫れ、痔瘻による肛門周囲膿瘍と紛らわしい状態になることがあります。適切に排膿されないと潰れた膿が皮下に広がり慢性化することがあります。完治には非感染期に完全切除することが望ましいです。
毛巣洞
肛門の少し上、仙骨正中線上あたりにできる小さな穴です。多毛の男性に多いですが女性にも見られます。近くの体毛が後天的に皮膚に入り込むことによって生じると考えられています。普段は無症状ですが、細菌に感染すると膿が溜まり、腫れて痛みを生じます。感染期には切開して膿を出す応急処置を行いますが、根治のためには切除する手術が必要です。
肛門ポリープ
肛門上皮にできるポリープです。多くは炎症性・繊維性の肥厚で、悪性化することは殆どありません。便通の異常(便秘・下痢の繰り返し)や裂肛など慢性的な刺激、炎症が原因と考えられています。小さなポリープは無症状ですが、大きくなってくると排便の際に脱出したり、根元の部分が裂けて出血や痛みの原因となります。ポリープは手術で切除可能ですが、随伴する裂肛や痔瘻がある場合にはそれらの根治手術が必要となります。
肛門異物
坐薬を包み紙ごと挿入してしまった、食べた骨が刺さった、など本来肛門にないものが迷入し、痛みを生じるばかりでなく時に感染を起こして膿瘍を形成してしまうことがあります。肛門鏡で摘出できない場合には麻酔をかけて摘出を行う場合もあります。
尖圭コンジローマ
ヒトパピローマウイルス(HPV)が原因の感染症で、外陰部や肛門に米粒大の先の尖ったものや扁平なものなど、様々な形のいぼができ、徐々に増えていきます。肛門の外の皮膚だけではなく肛門管内の上皮にできることもあり、痒みを伴うことがあります。治療として外用薬を用いることもありますが、切除や焼灼療法を、いぼが出現しなくなるまで何度か繰り返し行う場合が少なくありません。最近増加傾向と言われる梅毒や、HIVなど他の感染症に同時感染していることがあるので、精査が必要です。
肛門周囲皮膚炎
肛門の周りにできる湿疹やかぶれで、主に痒みやヒリヒリとした痛みを生じます。外部の刺激が原因となることが多く、下痢、カンジダ菌による感染のほか、洗いすぎや拭きすぎにより皮膚のバリアが壊れるために引き起こされます。シャワートイレでの洗いすぎや、炎症のある時期の石鹸の使用は逆効果となるため禁物です。外用薬を用いますが、薬が合わない場合には悪化することもあるため注意が必要です。
直腸脱
直腸を支える骨盤底の筋力低下により直腸が肛門から脱出する状態で、こぶしぐらいの大きさになることもあります。女性でリスクが高く、子宮脱や膀胱脱を伴うことがありますが、男性にもまれにみとめられます。初めは排便時のみの脱出ですが、進行してくると立ったり、歩くだけでも脱出します。脱出が頻繁になると下着に擦れて出血することもあります。治療は原則外科的治療です。経肛門手術と経腹手術があります。
直腸瘤
直腸の前方の括約筋の壁が弱くなり、直腸壁が膣側にポケット状に膨らんでいるものです。経膣分娩による出産歴のある女性にリスクがあります。排便の時に残便感があったり、膣側が膨れ、指で圧迫しないと便が出ないことがあります。
便秘や下痢で残便感が悪化するため便通異常の内服治療を行いますが、効果が低い際には造影検査などを行い、手術も検討します。
直腸炎
直腸の粘膜に発赤、ただれ、むくみ、出血などを認める状態です。前立腺に対する放射線療法などの後に起こる放射線性直腸炎のほか、感染性腸炎、潰瘍性大腸炎などがあります。直腸鏡でも観察可能ですが、さらに奥の状態を確認するために大腸内視鏡検査が必要です。焼灼療法や、薬物療法など、特定された原因に応じた治療が選択されます。
潰瘍性大腸炎、クローン病
潰瘍性大腸炎は大腸粘膜に慢性的な炎症が生じてびらんや潰瘍などが形成され、下痢、出血、腹痛や、重症な場合には高熱や貧血などが引き起こされます。発症後10年弱で大腸がんを併発する場合があるため、診断されたら炎症を抑える治療を継続することが大切です。
クローン病は消化管全体に慢性的な炎症を起こす、特に10代〜20代で発症することが多い病気です。肛門に特徴的な病変(浮腫状の皮垂、痔瘻など)が認められ、直腸や膣に瘻孔を作ってしまうこともあります。
いずれも難病に指定されており、治療には5-アミノサリチル酸、ステロイド、免疫調整の内服や、モノクローナル抗体、血球成分除去療法などがありますが、クローン病での高度狭窄、肛門周囲膿瘍や、潰瘍性大腸炎で内科的治療が無効な場合や大量出血などがあれば外科的治療を行います。内科的治療を行う上で、肛門周囲膿瘍に対し切開などで感染コントロールを行うことも非常に大切です。
大腸ポリープ、大腸がん、肛門がん
大腸がんは日本人のがんによる死因のうち、男性で3位、女性で1位と上位を占めており、特に直腸とS状結腸が多くなっています。出血や腹痛、便秘などが症状として現れますがこれらは全てがんが進行してからのもので、初期の癌では症状が出ないことが殆どです。健康診断でスクリーニングとして行われる便潜血検査が重要ですが、結果が陰性でもポリープやがんが見つかることもあり注意が必要です。診断や予防には定期的な大腸内視鏡検査が必要です。当院では特に出血や急激な体重減少など、がんを疑わせるような兆候がある場合には、直腸、S状結腸までであれば下剤を飲まずに受診当日すぐに検査を行うこともできます。大腸がんは初期の段階で切除できれば追加の治療が必要ないことが殆どですので、早期発見が大切です。
肛門がんは日本では年間約1000人とまれな病気ですが、特に肛門管の中から発生する「肛門管がん」では病変の部位が排便機能に関わってくるため、QOL(生活の質)に大きく影響します。症状は排便時の痛み、出血、腫れ、などですが、いぼ痔や切れ痔だと思って長年市販薬を使っていた、恥ずかしくて受診できなかった、など受診が遅れ進行した状態で発見されることが少なくありません。多くの場合、診断には生検(組織を採取して顕微鏡で診断する)が必須です。放射線療法や手術が行われます。
便通異常(便秘症)
食物繊維の摂取不足、水分不足などのほか、大腸がん、腸の動きが遅いなど便秘症には様々な原因があります。さらに、直腸や肛門部分の異常(狭い、ポケットがある、肛門をうまく動かせないなど)が原因となっていることも少なくありません。やみくもに便秘薬を増やしても改善につながらないことがあるだけではなく、一部の薬は大腸の壁に茶色い色素沈着を起こしたり、耐性といって徐々に薬の量を増加しないと効かなくなってくる現象を誘発します。日本ではここ10年程度で多くの新しい便秘症治療薬を処方することができるようになり、治療の選択肢が増えました。当院では便秘症の専門的な検査を行っています。また便秘治療の経験豊富な医師が薬剤選択のお手伝いをします。便秘症で病院を受診する方は全体の5%に過ぎず、多くの方は自己対処したり市販の薬を飲んだりされていると言われています。今飲んでいる薬は自分に合っているのかな?という疑問をお持ちの方も、一度気兼ねなくご相談ください。
便通異常(便失禁)
便の我慢ができない、知らないうちに下着についている、などにより、外出に差し支えることもあります。便塞栓(便が肛門部分で詰まってしまうこと)により、脇から漏れ出てしまう溢流性便失禁、出産や外傷の影響による肛門括約筋断裂や加齢などで筋力が下がってしまっている肛門括約筋不全のほか、便性状が緩い、などが原因として挙げられます。
直腸肛門痛
排便に関係なく、肛門の奥に締め付けられるような痛みが出たり、皮膚がピリピリと持続的に痛むものです。時に一日中持続し、姿勢により悪化することがあります。陰部神経痛や挙筋痛などが関わっていると言われ、主にストレッチ体操などの理学療法や、薬物療法、場合によりブロック注射を行います。